ノウハウコレクターからの脱出

もし私が、私のために存在しているのでないとすれば、誰が私の為に存在するのであろうか。もし私が、ただ私のためだけに存在するのであれば、私とはなにものであろうか。もしいまを尊ばないならば、いつという時があろうか。

『タルムード』

今回引用したタルムードとは何ぞやという話ですが、
これは言うなればキリスト教のバイブル、イスラム教のコーランにあたる、
ユダヤ教の聖典です。
随分変わった本を読んでいるなと思われるかもしれませんが、読んだ事はありません。
そもそもどうやって入手したらいいのかが解らんです。
アマゾンで検索しても、解説書や引用集ばかりで原典の翻訳が見つからない。

しかしフランクルやフロム等、
ユダヤ系の著者が書いた本に結構な頻度で引用されているので知っている訳ですね。
冒頭の引用はフロムからですが、フランクルの場合ニュアンスが若干違っている。
フランクルの方の引用はこっちですね。

もし私がそれをしなければ、誰がするであろうか。
しかし、もし私が自分の為にだけそれをするなら、私とはなんであろうか。
そして、もし私がいましなければ、いつするのだろうか。

フロムでは「be」だった箇所が、フランクルでは「do」に変わっている。
だからなんだという無駄話は長くなりそうなので置いといて、
本題に入っていきましょう。

大きめの本屋に行けば、大抵はモテ本のコーナーがある。
その名の通り、どうすればモテるのかについて書かれた恋愛ハウツー本です。
その多くはファッションや会話の指南、
デートスポットの選び方など「個人的な」努力について書かれています。

ところで、恋愛には相手が必要です。
ありとあらゆる恋愛術をマスターしたとしても、
女の子がいなければ恋愛は出来ません。

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何を当たり前の事を、と思われるかもしれませんが、
これは結構重大で根源に関わる問題なのですよ。
まるで磁石かブラックホールの様に、
黙って立っているだけで女を引き寄せる超イケメンだったとしても、
無人島にいたら恋愛は出来ない。

それとも何ですか。
キムタクみたいな超いい男だったら、無人島にいてもダイソンを超える吸引力で引き寄せられた女の子が荒波を乗り越え単身イカダで会いに来てくれるという訳ですか。
流石にそれは無理があるだろう。

恋愛が上手くいくかどうかはオシャレなファッションやイカした会話よりも、
どれだけ多くの異性に会える環境にいるかの方が重要、かもしれない。

昨今のネットスラングで「オタサーの姫」なる言葉がある。
男しかいないオタクサークル、略称オタサーに一人女のメンバーが入ると、
それだけでそのサークルの姫的な地位を確立してモテモテになってしまう。
昔だったら、合唱部や吹奏楽部に男が入部するとそれだけでモテた様な物ですね。

モテるには個人の魅力なんかいらん! 環境の方が重要なんだ!
って事がいいたい訳では勿論ないですよ。
そもそもの魅力は必要です。地力が無かったら話にならない。
そうでないと、工学部時代は「学部のアイドル」としてチヤホヤされたのに、
会社に入ったら誰も見向きもしないOLみたいになってしまう。

恋愛ってのは言うなれば自分の魅力を相手に売り込む様なモノ。
磨きをかけてないガラクタ押し付けられても迷惑でしかない。
異性を引き寄せる魅力を身につける為、自分を磨く事は絶対に必要だろう。

しかし恋愛と言うのは相手となる異性が必要だ。
異性に出会う事がなければ、
どんなに磨かれた魅力であろうと恋愛術であろうと宝の持ち腐れに過ぎない。

ビジネスも似たような所がある。
恋愛を成り立たせるには異性の存在が必要不可欠なように、
ビジネスを成り立たせるには顧客の存在が必要不可欠。

これまた「何を当たり前の事を」と思われるかもしれませんが、
この当たり前の事が案外忘れられがちなのですよ。
ビジネス書には様々なテクニックやノウハウが書かれていますが、
恋愛本と同じでそれを使う相手がいなかったら何の意味も無い。

一体「誰の為に」使うのか?

サイトを見つけ易くする為にSEO対策を施しましょう!

「誰に」見つけて貰う為にSEO対策をするのか?
それが解っていなかったら対策のしようがない。

理念を伝える為にライティングスキルを身につけましょう!

「誰に」伝える為にライティングが必要なのか?
それによって響く文章は全く変わってくる。

顧客との信頼関係を築くにはDRMが一番です!

「誰と」信頼関係を築きたくてDRMを使うのか?
現実世界で信頼関係を築き上げたかったら、「顧客」なんてこの世のものならざる抽象概念ではなく具体的な人格を伴った人間を想定しないと無理ですよ。

ノウハウやテクニックはあくまでも道具であって手段に過ぎない。
いつだって目的が先、手段はそれに準ずる。
そしてビジネスにおける目的は「顧客に良い変化をもたらす事」。
目指すべきは顧客の変化。

顧客の理想と現実にはギャップがある。
そのギャップを埋めるのがビジネスの役割。

劇的ビフォーアフター。なんという事でしょう。
あのダシをとり終えた鶏がらの様なボディに、見違えるような筋肉が!
ってな具合に理想の姿へと変化させる。
顧客が皆筋肉モリモリモッチョマンになりたいかどうかは別として。

描いている理想を手助けできる時にのみ、ビジネスは成り立つ。
だからビジネスを始めるのであれば、顧客は何に悩んで何を理想としているのか?
というのが一番最初に考えておくべき事です。
テクニックやノウハウは、あくまでもそれを手助けする手段に過ぎない。
「誰の為に使うのか?」という事が決まっていないのにビジネスを勉強しても、
それは無人島で恋愛本を勉強するに等しい。
ビジネスも恋愛も、相手がいなくては成り立たないのだから。

使う相手がいないまま「自分の為だけに」勉強する人間を、
俗にノウハウコレクターとか成功哲学オタクと呼称する訳だ。
誰の役にもたたないのであれば、どんなに素晴らしい英知を持っていたとしても、世間的には存在しないと同義。何故凄い知識をいっぱい持っていても使えないのかと言うとこれは当たり前の話で、使える文脈を設定していないから。
ビジネスの知識というのは「誰かの為に」という文脈を設定して始めて機能するものなのです。一人で恋愛は出来ないし、一人でビジネスも出来ない事を思い出してみればこれは当然ですよね。
ビジネスで一番最初に考えるべきは、DRMだのSEOだのといったテクニックではない。

顧客は一体何に悩んでいるのか?
顧客の理想像は何か?

という相手の事。
この事を考えておかなければ、どのテクニックも上滑りになる。
テクニックというのは、考える労力を省く為に使う物ではない。
そして更にいうのであれば、

自分は誰を助ける事ができるのか?
自分は誰を助けたいのか、つまり誰を顧客にしたいのか?

という自分の事についても詳細に考えておく必要がある。
それをしないのであれば、全ての知識は宝の持ち腐れだ。

自分にしか助けられない人は、広い世界のどこかにきっといる。
自分がやらなかったらその人を助ける事はできない。
自分しか出来ない事を自分がやらなかったら、誰がやってくれるというのか。

自分が助けられる顧客はどんな人なのか?
案外忘れがちなこの質問を考えるのが、ビジネスの最初の一歩です。

それでは、次回の記事まで御機嫌よう。

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