このブログの7月のテーマは『ヒーロー』と『進化』であったが、
8月のテーマは『意志力』と『哲学的素養』である。
なので今月はこの話題がもうちょっとだけ続くんじゃよ。
前回の記事でジョブズやザッカーバーグの服装を取り上げた。
彼らが毎日同じ服を着続けるのは、意志力のマネジメント上の理由からだ、と。
まあ意志力の他にも理由があるかもしれん。
俺はこのお気に入りの服以外着るつもりは無い、という好みの問題だったかもしれん。
ジョブズに関しては、俺には見えない他の理由があったかもしれないが、
ザッカーバーグに関しては、意志力の問題だと断言しておきます。
ザッカーバーグについて軽く調べていくうちに、そう断言できるだけの根拠も見つかった。
前回ザッカーバーグを画像検索した時の様はホント圧巻であった。
いつも同じネズミ色の半袖Tシャツ来た兄ちゃんの写真がズラズラと並ぶ。
半袖で寒い時は長袖のパーカーを羽織るだけ。
ついでに色々検索してみたら、名言集みたいなサイトに辿り着いた。
それを読んで確信したのが彼は意志力マネジメントの重要性をしっかり認識している。
名言の大半が、意志力をどうマネジメントするべきかに言及したものだ。
今回その中から一つとりあげて色々書いていきます。
今回取り上げるのは、記事タイトルにした言葉、
「完璧を目指すよりまず終わらせろ」
である。
記事タイトルを見て「いやぁ、このブログの管理人は中々カッコイイ事言うなぁ」と、
勘違いした人は申し訳ないのだが、それは俺の発言ではなくザッカーバーグの発言です。
完璧を目指すよりもまず終わらせろ、と。
これは、意志力をマネジメントする上でとても重要な心構えであり、ノウハウです。
その理由を、今回は心理学的な観点から解説していきます。
心理学には『ツァイガルニク効果』と呼ばれる現象がある。
しかしこれは、呼び方がいっぱいあり過ぎて何と表記したらいいのかいつも迷う。
ザイガニック効果、ゼイガルニク効果、ツァィガニック効果等々。
迷うのは意志力を浪費するだけなので、Wikiの表記である『ツァイガルニク効果』に統一します。
名前の由来は、これを発見したロシア人の心理学者であるZeigarnikです。
何でこんなに色々な表記があるのかというと、
これはロシア語をアルファベット表記(Zeigarnik)にして、それを更に日本語読みにしているからです。Julius Caesarを『ジュリアス・シーザー』と読んだり『ユリウス・カエサル』と読む様なものですね。
そんな豆知識は置いてといて、と。
このツァイガルニクさんが発見したツァイガルニク効果とはどういう現象なのかというと、
人は達成できた事柄よりも、未達成のまま終わった事柄の方を良く覚えている、
という現象の事をいいます。
ツァイガルニクが日本人だったら『釣り逃した魚は大きい効果』と名付けたかもしれん。
これは飲食店で働いた経験がある人なら良く解る事かと。
俺自身が、物凄く納得している事です。
居酒屋で働いて居た時はしょっちゅうでしたね。
居酒屋がクソ忙しい時。
片付けた食器を両手に抱えてメモが取れない状況でも、
お構いなしに飲み放題の客は次から次へと注文してくる。
そんな状況でも「はい、かしこまりました!」とスマートに答えて、
しっかり出せるぐらいのスキルは身に着けた。
ちゃんと覚えて酒を作って出せるのだが、出したらもう覚えちゃ居ない。
もの凄い勢いで忘れていく。
時々お客が、グラスを掲げて「これをもう一杯ください」と注文してくる時があるが、
そういう時はすかさず確認し返さないと無理ですね。
なんせ出したメニューに関してはもう覚えちゃいない。
実際、ツァイガルニクはこの現象を研究室ではなくレストランで発見した。
レストランやバーのウェイトレスは、お客が注文したメニューを良く覚えているが、
お客に料理を出して配膳が終わった途端、物凄い勢いでメニューを忘れていく。
飲食店の経験が無くても、これは日常のあらゆる所で発見できます。
というか、あらゆる所にあり過ぎてとても具体例を書ききれない。
例えば、テレビ番組。
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
ドロロロロロロロロロロロロロ――――(ドラムロールの音)
はい、ここでCMです、となって視聴者は「おいいいいい!」と突っ込みを入れる。
結果を知りたい! 早く答えを!! と、もうそればかりが気になって気になって、
頭の中はそれ以外考えられない程に集中し続けるが、
結果を知ってスッキリすると、後は物凄い勢いで忘れていく。
結果を知らずにいたままだと、ずっと頭の中にモヤモヤが残りつづけてしまう。
このモヤモヤを解決するには、テレビに喰らい付くしかない。
テレビはこのツァイガルニク効果を利用しまくっている具体例だ。
映画の予告もそうですね。
「果たして犯人の正体は!?」
「地球滅亡の危機を救うたった一つのアイディアとは!?」
「試練を乗り越えた愛する2人に待ち受ける更なる試練とは!?」
知りたい! 結末がどうなるのか見てみたい!
という思いで頭をパンパンにして、
もう見ずには居られなくなってしまったとしたら、
マーケティング担当部門の大勝利だ。
見ないとずっと頭に不快なモヤモヤが残り続けてしまう。
この不快感を解消するには、映画を見るしかない。
「人間の脳は、問いを与えると後は勝手に答えを探してきてくれる」
と言われるが、それはこのツァイガニク効果が働くからだ。
答えが出ない未解決状態だと、いつまでもその事が頭に残り続ける。
そしてこの状態は、凄い不快感を伴うものなのだ。
日常的な言葉で言うと「喉まで出掛かっている」あの独特のもどかしさ。
「あれ何て言うんだっけ? ほらあれだよあれ。だーかーらー、アレだってば!」
このもどかしさを解消する為に、脳は答えを出すまで検索をやめない。
そして風呂等でリラックスしている時にふと答えが解って、
「ユリイカ!」と叫びながら裸で街中駆け回る訳だ。なんという走れエロス。
答えを見つけて完了するまで脳は休む事を知らない。
これは素晴らしい事でもあり、厄介な代物でもある。
休む事を知らないというのは、常時燃料を消費し続けているという事だ。
燃料である意志力を消耗し続けているせいで、気付いた時にはやる気が枯渇してしまう。
それ故、完璧を目指すよりもまず終わらせろ、という教えが重要になってくる。
さっさと終わらせて「ここでお終い!」と脳に知らせてやらないと、いつまでも働き続ける。
まだ終わっていない事、途中でやめた事、やろうと思ったがまだやっていない事。
これらの事が積もり積み重なって、人は燃料である意志力を失っていく。
ホコリの様に微々たる量でも、気付いたら部屋一面を覆うほどに積もっていく。
人は、達成できなかった事をいつまでも覚えているというのがツァイガルニク効果です。
とにかく何でもいいから完結させて、脳に「もう忘れていいよ」というメッセージを伝えてやらないと、クソ熱い真夏に付けっ放しで作業させているパソコンみたいに、オーバーヒートでぶっ壊れてしまう。つまり、燃え尽き症候群になってしまう。
何かを頑張りすぎて燃え尽きるのではなく、何もせずに燃え尽きる不完全燃焼な燃え方だ。
引き篭もりやニートが、何かをなした訳でもないのにあんなに疲れ果てているのは、
やらなきゃいけない事を知っていながら何もやらず、
頭の中だけで悩み続ける事に意志力を消耗しているから。
悩まない行動力のあるニートは中々に楽しい人生送っていると思いますよ。
そんな行動力溢れる人間がいつまでもニートで居続ける事は不可能だろうから、
世のニート達は皆行動力が無い人ばかりです。
どんな業界でもメモを取ることの重要性は言われている事だろう。
俺もメモは取るようになってきたのだが、それは世間で言われている理由とは逆の理由からだ。
「大事な事は、忘れないようにしっかりメモを取りなさい」と言われているが、
俺がメモを取るのは全く逆の理由で、覚える為ではなく『忘れる為』にメモを取っています。
紙にしっかりと書き残す事によって、
「ちゃんと書き残したから、後はもう忘れていいぞ」
というメッセージを伝える為にメモを取ります。
頭の中で浮かんだ考えというのは、しっかり書き残しておかないと、
いつまでも同じ事をハムスターの回し車みたいにグルグルと繰り返す。
ちなみに、いつまでも回り続けるこの状態を『悩む』と言います。
悩んだ時は紙に書き出せというのは、ジャグリング状態になっている思考を、
一旦床に置いて眺めるという作業だ。
紙に書いて思考を外に出しておかないと、延々悩み続ける事になりますからね。
考える事は好きだが、悩む事は好きではない。
だから、頭の中に浮かんだ事は、しっかり書き出して後は忘れる。
忘れるからこそ、別の事が考えられるようになりますからね。
しっかり書き残してドンドン次の事を考える様になった結果が、このブログです。
ブログを運営するようになったら、悩む時間が激減するという副産物がついてきました。
メモの大切さは重々承知していますが、
「忘れない為にメモしろ!」という人間の命令はトンチンカン過ぎて従った事がない。
メモなんてしたら、忘れてしまうではないか。
ツールに頼ってたら、人間の機能はドンドン衰えていく事も知らないのか?
全ての計算を電卓で行っていたら、お釣りの暗算も手間取る様になるし、
近くのコンビニに行くのでさえ車に乗ってるから、
子供の運動会でいいとこ見せようとして筋肉痛になるんですよ。「明後日は筋肉痛だ」と。
「忘れない為にメモするな!」なら適切なアドバイスだと思いますが、
「忘れない為にメモしろ!」というトンチンカンなアドバイスに従う道理はない。
メモは忘れる為にするものです。
脳は未達成な出来事をいつまでも頭の中に残して、解決の為に意志力を消耗し続ける。
そんな無駄な事に意志力を使っていたら、肝心な所で使うべき意志力がなくなってしまう。
だから何かをやる時は、荒削りでもいいからまず終わらせて「もう終わったぞ」と脳にしっかり伝えてやる。やりかけの仕事を残してベッドについた時のあのモヤモヤ感を残してたら、休んでも疲れはとれにくい。
数ヶ月数年かかる大きな目標であっても、
毎日毎日の中間目標を設定し、毎日の日課を『終わらせる』事をしないと、意志力がもちません。
こうやって毎日目標を達成する事を、成功哲学の世界では『小さな成功体験』と言いますね。
余談だが、フランクルがその著書『夜と霧』の中で、とあるラテン語について解説している。
ラテン語のfinisという言葉は2つの意味を持っている。
終わりという意味と、目的という意味だ。
終わりを設定して置かないと目的に向かって生きる事はできないし、
目的がなくてはどこまで行けば終わりかも解らない。
何かを成し遂げる時に考える事は、迷わずさっさと始めてさっさと終わらせる事。
やろうかな、やらないかな、なんて悩むことに意志力を使っていたら、
肝心の成し遂げる事に意志力を回すことができない。
そして中途半端に終わらせてしまうと、
他の事をしててもツァイガルニク効果のせいで、やりかけの事がいつまでも頭に残る。
そうしない為に、荒削りでもいいからとっとと終わらせる事。
長い時間をかければクオリティの高い仕事が出来ると思ったら大間違いだ。
10年の歳月をかけて『ファウスト』を書き上げたゲーテレベルの意志力を保有しているならそれでもいいのだろうが、まず普通の人間は荒削りでもいいからさっさと終わらせた方がいい。
そうやって意志力の消費を抑えておけば、結果として質の高い仕事が出来る確率が上がる。
心得ておくべきは質より量です。完璧主義者は何も生み出しません。
やらないならやらないで、もう一切忘れて未練を残さない事。
未練に意志力を消耗しても何も生み出しませんからね。
完璧を目指すよりもまず終わらせろ。
それでは、次回の記事までごきげんよう。